心にゆとりや豊かさをもたらす余暇は、仕事同様に私たちの生活基盤をつくる重要な要素です。余暇は、職場や家庭の義務から解放され、空白の時間に身を放つ自由さを起点に、休息や気晴らしのみにとどまることなく、主体的に楽しみを見つけ、創造性や個性を磨く可能性を持っています。余暇は、まさに人間が人間としてあるべき姿を培う大切な時間といえるでしょう。
ところが日本人の余暇生活を客観的に分析してみると、こうした自由な時間を阻害するさまざまな要因が存在していることがわかります。一番にあげられるのが労働時間の問題です。働くことの価値を偏重する日本社会では、残業が常態化し、週末も土日の二日間を完全に休める人は全勤労者の6割しかいません。有給休暇の取得率が低く、しかもそれを細分して取得することが許されているために、長期に連続する休暇が取りにくいのが現状です。その根底には、日本人の休むことへの権利意識の低さという問題があります。また現役世代は過剰に忙しく、高齢者は逆に時間を持て余すという余暇時間の偏在も課題です。さらには、余暇の商業化が進み、金銭消費型レジャーが主流になる一方、コミュニティにおける自発的な余暇は未成熟です。暮らしに余裕のある人しか余暇も楽しめないのが現実で、生活の格差が余暇の格差に直結していると言わざるをえません。その原因は個人の余暇意識の問題もさることながら、日本社会の構造的な問題―働き方の慣習、休暇制度の不備、身の回りの余暇環境の未整備、余暇教育の不在、余暇情報の偏り…いろいろな阻害要因を挙げることができるでしょう。
こうした現実を踏まえると、国民のだれもが豊かな余暇を享受できるようにするための政策提案や市民運動を提起していく必要性が浮かび上がってきます。余暇生活の重要性を主張するためには、余暇理論の確立と啓発が求められますし、余暇の現状を分析してその改善方向を示す必要もあります。余暇という自由な活動を個人の主体性を尊重しながら支援していくための実践的方法を提案していくことも重要になるでしょう。
余暇は、自由という原点に立ち、その自由を開発・発展させ、豊かに広げていく可能性に満ちた時間です。自由な時間を自分自身に投資し、それを継続することから、人生を楽しく深く味わう能力が養われます。さらに、私事的な世界のみに留まることなく、人と人を結びつける力を養い、新たな社会の形成へつなげることができます。真の楽しみや生きがいは、人とのつき合いや社会とのかかわりの中でこそ、実感できるものだからです。
私たちは1995年11月に、(財)日本レクリエーション協会が養成した「余暇生活開発士・相談員」の有資格者を中心に、任意団体「日本余暇生活開発士・相談員会」(略称:日本余暇会)を設立しました。
その後、組織は発展し、39の都道府県支部を擁する全国組織として、余暇を取り巻く問題を社会的に提起するために、全国一斉「余暇環境調査」を実施したり、余暇生活相談所を開設したり、余暇診断プログラムを提供するなど、多彩な活動を行ってきました。しかし、2000年代の後半から活動が低迷し、有資格者の養成も中断されてしまいます。2013年に至って活動が再建され、旧来の有資格者ばかりでなく、思いを同じにする幅広い人材に参加を求め、「孫育て」「温泉探訪」「散歩の勧め」「余暇診断」などをテーマに全国各地で研究フォーラムを開催し、余暇開発のための多様な提言や具体的な活動の提案を行ってきました。
広く社会に余暇問題の存在を訴え、社会運動としての余暇開発を主張してきた私たちは、国民生活の向上や充実を目指す公益活動を行ってきたと言えます。しかし、これまでのような任意団体のままでは、関連する団体、企業、行政等と連携して活動を拡げたり、事業を受託したり、助成金等の支援を受けるためには不都合が多いことに気付きました。私たちの活動が公益性を持った活動であることを改めて世の中に訴え、この運動をさらに発展させるために、私たちは特定非営利活動法人を設立することを決意しました。これまで進めてきた諸活動の成果を継承し、社会的責任を明確に自覚し、コロナ後の新たな世界に向けて余暇開発運動を発展させていく所存です。
《申請に至るまでの経緯》