#118 都市 その1(2025年10月4日)

【つぶやき】

「地方創生」の議論は、地方に仕事を増やせ、雇用を増やせと「雇用環境」を問題にしてきたが、それだけではない何か「ファクターX(未知の要因)」を探し出そうとした調査があった。

その「ファクターX」は、遊びの寛容性と幸福度だという。

遊びの寛容性が最も高い「東京」が魅力的だというのだが・・・。

【コメント】

 興味深い調査報告を見つけた。LIFULL HOME’S総研の「地方創生のファクターX part2」(2022 https://www.homes.co.jp/souken/report/202209)だ。地方出身で東京圏在住の18歳から39歳の男女の内、出身地にUターンを希望しない者にその理由を聞いたところ、「東京の暮らしが気にいっているから」という回答が一番多かった(51%)。「(地方は)やりたい仕事が少ないから」(43.9%)を上回っているのだ。若者が気に入っている東京の暮らしとは、「質の高い遊び」や「余暇が楽しめる街」がトップで、「最先端の知識や技術を吸収できる街」を抜いている。
 詳しいところは割愛してこの調査の結論をいえば、地方創生政策が今まで見落としてきた要素=ファクターXは「寛容性」であり、遊びが寛容度と幸福度を高めるという。地方創生には仕事場や雇用が重要とされてきたが、地域の人の生活を豊かにする「遊び」にもっと注目すべきでは、と述べている。この報告書では、文化芸術系の遊びは寛容度に強く作用し、東京のような大都市圏と人口規模の小さい地方都市では遊びに格差があるというのだ。
 確かに地方に行くと駅前商店街はシャッター通りになっており、地元の人はどこに行ったのか聞いてみると、みんなロードサイドの大型ショッピングセンターで休日を過ごしているという。まさに三浦展がいうように、どこもみんなファスト風土化しているのだ。「娯楽は命の次に大事なものである」という三浦氏は、反・ファスト風土の「遊びの再生論」を地方創生策として唱えている。

 では都市・東京は、余暇空間としてどんなところに魅力があるのだろうか。
 都市の「都」は「みやこ」。政治・行政・経済・軍事の中枢拠点としての機能を有している。都市には多くの人が働き、住まい生活し、外からの訪問客・観光客も絶えることがない。ゆえに「都」には、効率性、明確性、先端性という要素が欠かせない。整備されたインフラは、快適性だけではなく、洗練された景観や美観にも影響する。街を歩く人の衣服だけではなく、さまざまなデザインにおいてファッション性や高級感が感じられるところは、魅惑的だ。余暇にとって欠かすことのできない、美術館、劇場、多様なアートイベントが開催される文化芸術度の高さも、他の地域ではなかなか味わえない。
 一方、都市の「市」は「いち」。人やモノやお金や情報が集まる交流拠点という意味だ。「市」には、「都」とは反対に、混とんとした人間臭さがある。例えば、東京でも新宿や渋谷、秋葉原や上野などの喧噪と雑踏には、活気やあやしさが混じる。とりわけ、東京は眠らない街だ。いつまでも電灯に照らされて、盛り場は毎晩祭りのような祝祭性がある。

 卵が先かにわとりが先かの議論のようだが、都市には人が集まるから多様な文化が生まれるのか、それとも多様な文化があるから人が集まるのだろうか。多様な人が集まり、集まった人の数だけ関心が広かり、多様な文化が生まれる、その循環こそが都市の価値なのだろう。
 都市であれ地方であれ、「経済性」や「効率性」だけではなく、公園や広場、ストリートの雑多な活動、盛り場、コミュニティの集いなど、異質なものが出会い、ふれあい、新しい文化を生み出す「余暇環境」としての視点は、まちの魅力を考える上では欠かせない。地方創生においても都市の再開発においてもその点をもっと議論すべきだろう。

《執筆:マダム》


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