#027 余暇に仕事を見に行く(2022年7月24日)

【つぶやき】

余暇というのは仕事の現場を離れて始まる。
仕事のことはさっぱりと忘れて、自分の好きなことをしよう、
今まで行ったことのないところに行ってみよう。
さて、どこに行ったものか、盛り場か遊園地か見知らぬ街か。
これが当たり前の余暇の姿だ。

しかし、ちょっと風変わりな余暇もある。
それは仕事の現場、オフィスや作業場や工場や
そこでいろんな仕事が現に行われている場を訪ねて、
余暇の目線で人が働く光景を眺めて見ようという趣向だ。
そこには思いがけない発見や感動があるのだ。

【解説】

 せっかくの余暇時間に自分の職場に戻ったのでは余暇が台無しだが、方向を変えて他人さまの職場を訪ねてみると、これがなかなか面白い体験が得られる。
わかりやすいのは何かモノを作っている工場に行って見ることだ。広大な空間に大きなエンジンがうなりを上げ、ベルトコンベアが回転し、次から次へと製品が吐き出されてくる様子を見てみよう。
われわれの消費社会を組み立ている身近な生活用品から食料品、衣料品、テレビやクーラーなどの電化製品、オートバイから乗用車まで、それらが生産される現場こそ、現代の科学技術の粋を集めた壮大なショーの舞台なのである。

 いささか旧聞に属するが、筆者は若いころ月刊『レクリエーション』という余暇と遊びの雑誌の編集者で、多種多様なレクリエーション・プログラムを探し求めていた。ある時「工場見学」というのは面白いのではないかと思いついて、伝手を頼ってさまざまな工場の見学に赴いた。
多種多様な工場を回ったが、今でも強烈に脳裏に残っているのは、製鉄会社の圧延工場である。溶鉱炉から流れてくる1000度以上の溶けた銑鉄を薄く延ばして大きな川のように流してゆき、薄い鉄板に引き伸ばして巻き取るのである。
真っ赤に溶けた鉄がごうごうと流れていく時の強烈な熱気と光、それをはるか離れた見学台から見晴らすのだが、これは何とも言葉にできない壮観だった。

 車のタイヤを作る工程も面白かった。タイヤは軸の周りにゴムの生地を何層にも巻き重ねて形に仕上げていく。1つ1つ丹念に手づくりしていく感じで、一丁上がるとくるくると回しながら運んで行くのだが、さわってみると温かく、大きなロールケーキを作っているようだった(今ではもっとオートメ化しているのかもしれないが)。
期待はずれだったのは写真フィルムの工場で、赤い小さな電灯が所々に灯るだけでほとんど闇の中みたいな空間で、何かがうごめいているのだが、ほとんど何も見えなかった。フィルムが感光してしまっては台無しだからこれは当然だが、見学向きではないと思った。

 このように生産現場を市民に開放し見学してもらう事業は「産業観光」と言われ、さまざまな分野で行われている。一番ポピュラーなのはビール工場で、麒麟でもアサヒでもサッポロでも、各地の工場が見学コースを設けているので、体験した方も多いだろう。
製造工程自体は大きな発酵槽を見て歩くぐらいで、さほど面白いものではないが、一巡した後は出来たてのビールを一杯ご馳走してくれるので人気がある。札幌の「サッポロビール園」のように、もはや生産はしていない古い工場の施設を使って、ビール博物館があったりジンギスカン料理のレストランがあったり、完全にレジャー施設化したところもある。
そのほか、よく知られた見学コースには茨城県五霞市にあるキューピーのマヨネーズ工場とか、静岡県浜松市のヤマハ本社のグランドピアノ工場、愛知県豊田市のトヨタ会館の自動車工場見学コースなどがある。いずれも有名観光地なみの盛況を見せている。

 こうした大掛かりなものばかりでなく、わが町の「産業観光」を開発することも大切だと思う。地元の企業の工場やオフィス、IT関連の事業所、ショッピングセンターの裏方の様子、あるいは上下水道の施設やごみ処理場などの公共施設、農業関係で水田や畑や農産物の加工場、海に近いところなら漁港や魚の処理場など、さまざまな現場がある。
たいていの事業所は、それぞれの仕事の理解に役立つ「見学」に好意的に対処してくれるだろう。余暇の役割は、余暇の土台となる仕事の現場についての知識と理解を深めることでもあるはずだ。


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