#036 まじめなレジャー(2022年10月24日)

【つぶやき】

レジャーと言えば一般には気楽で肩の凝らないものと相場が決まっている。
だからこそ一時の気晴らしになり、元気も取り戻せる。
くそまじめなレジャーなんか面白くもない…

ところが世の中には、まじめに真剣にレジャーに取り組む人たちもいる。
自分の趣味に打ち込んで、時間もお金もたっぷり使い、
そこに生きがいを感じている人だっているのだ。

そうしたまじめなレジャー=シリアス・レジャーこそが
新しいライフスタイルを作っていくのだという。

【解説】

 昨今の欧米の余暇研究というと「シリアス・レジャー」というのが重視されているという。この用語はもともとカナダの余暇社会学者ロバート・ステビンスが言い出して広がったものである。「シリアス・レジャー」は日常の「カジュアル・レジャー」に対比されて使われていて、カジュアルの方はそれこそ日常のちょっとした隙間時間に気晴らしをしたり、あるいは休日に遊園地に行ったり小旅行に出向いたりする気軽に楽しむ余暇である。これに対してシリアス・レジャーは本気で真剣に、まじめにひたむきに取り組むレジャーである。

シリアス・レジャーにはどんなものがあるか。ステビンスは大きく3つのジャンルを上げている。

  1. アマチュア
  2. ホビー
  3. ボランティアである。

いずれもカジュアル・レジャー にはない専門性を持ち、独自のスキルが磨かれて継続的に行われる。深い知識や高度なスキルを必要とせず、場当たり的に行われるカジュアル・レジャーとは、そこに違いがある。

 アマチュアは愛好者ということで、どんな領域にも存在し、中にはプロ顔負けの技量を持つ人もいる。昔からアマチュア無線の愛好者というのがいて、短波放送で世界中と交信し、独自の民間外交を担っていた。スポーツにしてもアマチュアが本来で、それを仕事にするプロ選手よりも高い評価を受けていたものだ。かつてのオリンピックはアマチュアの祭典で、スポーツで稼ぐプロ選手は出場資格がなかった。プロを認め、商業主義を導入したオリンピックが巨大化し、興行化し、金まみれのイベントになってしまったのは、アマチュアイズムを否定したからに他ならない。

 ホビーの世界も奥が深い。もちろん、気軽でカジュアルな趣味もたくさんあるが、それが高じてマニア化し、独自の世界を切り開いている趣味人がいる。切手収集は「王者の趣味にして趣味の王者」と言われたものだが、この道にハマったコレクターには、博物館や資料館にもないような貴重な切手を集めている人がいる。趣味の園芸、音楽趣味、日曜画家、鉄道ファン(乗り鉄と撮り鉄)などなど、様々なジャンルにそれぞれの趣味人がいる。その打ち込みようは半端なものではなく、金と時間を惜しまず、全エネルギーを趣味に賭けて趣味を生きる目標にしている人もすくなくない。

 ボランティアも重要な存在である。余った時間にちょっとボランティアという段階から入る人が多いが、やがてその面白さや社会的意義の重要性に感じて、グループを作りネットワークを組んで、社会問題の解決に取り組んでいる人も数多い。子どもの貧困が話題になり、それを少しでも改善しようとして全国に「子ども食堂」が生まれているが、それらのほとんどは多くのボランティアに支えられて運営されている。

 こうしてみると「シリアス・レジャー」は、個々人の生活の質を高め、社会をより良いものにし、その文化度を高めていくために欠かせない活動と言ってもいい。現実の世界を維持するために仕事と労働が必須であるのはもちろんだが、「人はパンのみにて生きるにあらず」という側面も忘れることはできない。人が人らしく、言葉を換えれば「文化」を育んでいくためには、現実世界を押し包んでひろがる余暇の世界、中でも「まじめな余暇」の充実は大きな課題と言ってよい。いささか衰退気味のこの国の明日を考えるためにも、日本的シリアス・レジャーの動向に注目する必要がある。

  • 日本で初めてのシリアス・レジャーの研究書として、宮入恭平・杉山昂平編『「趣味に生きる」の文化論―シリアスレジャーから考える』ナカニシヤ出版 2021年 がある。
    筆者(薗田碩哉)も執筆に加わっている。

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