【つぶやき】
食の変遷は時代と共にある。
食はファッション。次々と流行が生まれている。
「男子厨房に入らず」なんて話は、今や昔の話。
働き方改革やジェンダー平等で「ビジネスパーソン、厨房に立つ」が常識らしい。
厨房に立ってみると、料理は意外と奥が深く楽しいのだ。
【コメント】
前回のジイのつぶやきで、世の中「食うことばっかりではない」とお叱りを受けてしまったが、それでも「食」を巡る話で盛り上がるのは楽しい。平成史を語るとき、食から時代を読み解くのも面白そうだ。そこには、女性の社会進出、増える個食と食を介した人とのつながり、情報化と自己表現などいろいろなキーワードが浮かぶ。
1970年代から始まる日本人のグルメブームは、バブル期に1つのピークを迎えた。情報源として人気だった1988年発行の「HANAKO」は女性を、1990年発行の「dancyu」は男性を引き付け、自慢できるような美味しい店や自分だけが知っている(振りが出来る)隠れ家店が人気となった。90年代の「料理の鉄人」や「ビストロSMAP」は、料理をエンターテイメント化して大いに楽しめた。その後、豪華な食ばかりでなく、B-1グランプリが開催されてB級グルメも話題となった。そして、スマホの普及とともに、インスタ映えしたスイーツやデカ盛りの料理がSNS上に溢れている。最近では「地味弁」までが・・・。
食に関して言えば、食べるばかりでなく作るということも大事な側面だ。
「私作る人、僕食べる人」こんなCMを覚えている方はいるだろうか。1975年に放映された大手食品メーカーのCMだ。若い人はもちろん知らないだろうが、たった2か月で放送打ち切りになったので、覚えている方もそう多くはなかろう。ラーメンの置かれたテーブルの前で、女性が「私作る人」と言うと、男性が「僕食べる人」と応える映像。何故短期で放送打ち切りになったかというと、男女の性役割分担を固定化させると婦人団体から抗議を受けたからだ。なんと、ジェンダーの観点から問題が指摘された日本で最初の広告とのこと、その点では短期間といえども、歴史に残るCMなのだ。
時代は変わって、「僕作る人、私食べる人」というのが今や若い女性の理想らしい。料理上手な男性はモテる。性役割分担なんて言っていられない時代が来た。女性の就業率はアップし、夫婦共働きの家庭も増えた。家事や料理もどちらか手の空いている方がせざるを得ないのが現実のようだ。忙しい毎日、時短料理や作り置き料理のレシピが人気なのだ。
といっても、実は料理の傾向は二極化している。シンプルで簡単な料理法がもてはやされる一方、手間や時間を掛けてつくるごちそうや保存食づくりも注目を集めている。コロナ禍、少しばかり余裕を持てた時間を何に使ったかという話は、7月のつぶやきにも書いた。一番が睡眠なのだが、続いて多いのが料理だった。ステイホームの時期、ホームセンタ―では鍋やフライパンがよく売れ、検索ワードでは、クッキーやケーキ、その他料理のレシピが上位に上がり、うわさでは一時スーパーから小麦粉やベイキングパウダーが売り切れたらしい。手作りが見直されたのだ。
普段の食事とは異なり、時間を掛けて楽しんでつくる料理。日頃は買って済ませているパンやお菓子、スパイスに凝ったカレーや燻製料理などを自分なりに作ってみる。素人の場合、常に同じ味に仕上がる訳ではない。時に失敗することもあるが、それは愛嬌。落ち込むほどではない、また挑戦。材料を吟味してみたり、いろいろな調理法を試したりして、どうにか納得の味にたどり着くそのプロセスは奥が深いのだ。自分の作品とも呼びたくなる上出来の料理を家族や友人に振る舞うのも喜びだ。そこでは、苦労話やうんちくを語ったりもするだろう。「おいしい!」と言ってもらった折には、「またご馳走するね」と、密かに次のチャレンジを考えたりする。ここまでくると料理もりっぱな趣味。創造性あり、他者との交流ありで、ジイに「食うことばっかり」とは言わせない。
執筆:マダム