#059 ショッピング その2(2024年2月14日)

【つぶやき】

ショッピングというのはただの買い物ではなくて、
街へ出て通りをぶらついて、あちこちのお店をのぞいて、
気に入ったものがあったら財布を取り出すし、
なければないで、あれこれ見て歩くこと自体が楽しい―
そういう「ウィンド・ショッピング」こそが余暇の神髄といえる。

目的のない、あるいは、目的のはっきりしない買い物が遊び心を引き出してくれる。

【コメント】

 ジイの年代の男たちは、あんまり、ウィンド・ショッピングを楽しんだことがない。
それは女性陣の専売特許だと思っていた。実際、わが女房殿はデパートがお好きで、洋服を買いに行くと言いながら、あちらこちらの店を覗き、気に入ったらしいお洋服をあれこれ試着なんぞしながら、ためつすがめつ鏡をにらんで、やっぱり似合わないとかなんとか言って、着くずした洋服を放り出して平然としている。
それを何軒もはしごして楽しそうだ。これにつき合うのは亭主の役目だとは思うものの、内心「とっとと決めてくれよ」と思うことしきりだった。

 とは言うものの、考えてみれば、こちらも似たようなことをしていたのである。
ただ、対象がお洋服ではなくて書籍だという違いがある。新本にしても古本にしても、本屋には洋服どころでない、膨大な種類が並んでいるのだから、そこから気に入った本を取り出すのは容易でない。
あれこれ取り出してはページを開き、時にはしばし読み耽ったりしながら、結局、買わずに書棚に戻してしまって、はい、さようならということも多々ある。

 新本の書店を訪れる場合は、お目当ての本が決まっていて、それを探し出したらすぐに購入するという、いわば目的的なショッピングになることが多いが、古書店の場合はそうでなない。
はるか昔に出た本から最近の本、聞いたこともないようなテーマや著者がバリエーション豊かに並んでいて、本の背の文字を丹念に読み取りながら探索していくのである。
これはあたかも森や野原を歩き回って美しい花や珍しい昆虫を探すのと同質の行動で、ブラウジング(元は動物が餌をあさるという意味)と呼ばれている。
ウィンド・ショッピングも古本巡りも人間的ブラウジングの一種で、そこでは現実的な目的を超えて、行動自体が楽しい、つまりは余暇と遊びの領域に入ることができるのである。

 今やネットショッピングで何でもかんでも買える時代になった。
本についてもAmazonを使えば新刊でも古書でも、検索すればすぐに探せる。
いくつかのキーワードで、さまざまな本を呼び出してブラウジングすることもできる。
それはそれで便利ではあるが、しかし、何かが足りない。
眼ばかり酷使して疲れるし、いまいち楽しくない。それは身体全体で参加していないからだと思われる。
やっぱり歩いたり休んだり、散歩の喜びを加味して買い物をするのが健康的ではなかろうか。

晴れた日は、書を求めて街へ出よう。

《執筆:じい》


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