#078 映画館 その3(2024年8月24日)

【つぶやき】

映画館は、年齢や体力に関係なく楽しめる。

映画館は、道具や技術も不要で楽しめる。

映画館は、一人でも、友達や恋人と一緒でも、家族揃ってでも楽しめる。

映画館は、少しばかりのお金と時間で楽しめる。

その気になれば、いつでも気軽に楽しめる映画館は、幸福度を高める場なのだ。

【コメント】

 ネット優勢、サブスク時代にあってわざわざ「映画館に足を運ぶ」のは、前者2人が書いてきたように、対峙する映像への没入感にあるだろう。昔、高倉健の任侠映画を観て映画館から出てきた人は、みんな「肩で風をきって」歩いていたという。映画館を出た後は、誰もが憧れる格好いい男になれたのだ。しかし、テレビ映画では、こうはならないだろう。子どもなら、テレビ映画でも戦隊もののヒーローをまねることができるが、大人でこれをやったら、かなりおかしな目でみられる。大人はテレビ映画ではここまでできないというか、なれない。何故なら、ヒメが指摘していたように、テレビ映画は外界ノイズが多すぎて没入不可能だからだ。
 没入には、これもまたジイのコメントにあったように、映画館の混沌とした暗闇が重要だ。映画館には、旧石器時代の宗教の始まりの「洞窟性」の特徴が備わっているという説を打ち立てたのは、宗教・人類学者の中沢新一(「狩猟と編み籠」講談社)だ。あの有名なラスコーの洞窟の奥深いところに描かれた牡牛の壁画がわずかな光に浮かびあがる光景と、真っ暗な劇場の白いスクリーンに動きだすイメージは、同じものだという。壁画同様、映画は層状になった幾つものイメージ群(光、色、形、背景、動作、位置構成など)には、我々の心の深いレベルに眠っている記憶や情報を強く揺り動かす力があり、日頃表面にあらわれてこない無意識と自分の内部でコミュニケーションを交わす力があると説いている。

 こうした没入感を得られる「映画館での映画鑑賞」は、人々の幸福度を高めるという調査結果がある(松竹㈱ 映画のある生活Lab 第1回・第2回レポート)。そもそも、趣味や余暇活動を持っている人が無い人に比べて幸福度が高いというのは、各種調査の結果にも現れているが、その中でも、映画館に行く人と行かない人の幸福度を比較したのがこの調査だ。「映画館での映画鑑賞」という余暇活動を通して得られるベネフィットとして、「非日常感が味わえる」「友人や仲間と楽しめる」「流行や話題に乗れる」を挙げる人が多い。また、「思い出になる」「刺激が得られる」「喜怒哀楽の感情が豊かになる」なども、他の余暇活動より強く感じられるようだ。
 幸福度に関しては、「生活満足」「充実感」「健康」「生きがい」「希望」の5つを指標としているが、映画館での年間鑑賞回数が0回よりは1回の人の方が、あるいは4回までより5回以上の人の方が、幸福度が高いという。特に「生きがい(人生に生きがいを感じている)」や「希望(未来に希望を感じている)」という幸福度を上昇させる効果が高いのは、年間5回以上の映画館での鑑賞という結果だった。
 幸福度に影響を与える要因として、「年収」と「家族や友人との人間関係」が大きいことは、既存の調査で明らかであるが、年収に関わらず「人間関係が良好でない」人にとって、映画館での映画鑑賞の回数と幸福度に強い相関があらわれるのは、目を引く結果であった。それは映画に、現実世界での人間関係の複雑さのカタルシスを感じるからなのだろうか。

 最近はサブスクに対抗するため、ゆったりとしたプライベートシートやバーを併設し、家庭では味わえない設備や演出でプレミア感を出す映画館が増えてきた。より高度な音響やプロジェクターによって、映画館でしか味わえない没入感が体験できるそうだ。
 非日常への没入はいいのだが、少々そのお値段が気になる。

《執筆:マダム》


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