#082 オンとオフ その1(2024年10月4日)

【つぶやき】

「いつでもどこでも」つながれるというのは、ICT時代の素晴らしいところ。

今や私たちは、つながらない環境には不安さえおぼえるだろう。

とはいっても、仕事のオフの時に、自宅のパソコンやテレビに上司の顔が映ったら、それは、恐怖でしかない。

いつでもどこでもつながれるは地獄、ホラー映画だ!

仕事がオフの時には、仕事のパソコンやスマホもオフにしたい。

【コメント】

 ICT(情報通信技術)は、情報社会の基盤となる重要なインフラで、その進歩は、今や私たちの生活にとって欠かせないものとなった。「いつでもどこでも」つながれる、その利便性や効率性、高度化などの恩恵を実感しない日はないだろう。
 しかし、待てよ、「いつでもどこでも」つながれることは、生活においては、安心・安全をもたらすだろうが、仕事においては、「いつでもどこでも」働けてしまうことにならないのか。そうなると、労働時間が増加するのではないか。時間や場所に縛られない柔軟な働き方は、一見、働く人々にメリットをもたらすように思えるが、一方で、会社から、上司から、取引先からいつでも連絡を受けられる状況に置かれているということで、オンとオフの区別がなくなることにならないのだろうか。

 そんな一抹の不安をおぼえる中、世界中で「つながらない権利」というものが議論され始めた。「つながる権利」ならわかるけれど、「つながらない権利」って何?という方もおられるかもしれない。「つながらない権利」とは、簡単に言ってしまうと、「勤務時間外や休日に仕事上のメールや電話への対応を拒否する権利」である。このような権利を、フランスはいち早く法制化し、2017年1月から施行した。さすがプライベートを重視するフランスだと思っていたが、現実には、今まで私生活を大切にしてきたヨーロッパでさえ、「つながらない権利」というルールがないと、自分たちのオフを守れなくなってきているということらしい。
 ところがフランスでも、こうしたことを法制化することに疑問の声も上がってきている。すっかり「つながる」ことに慣れてしまったのか、その恩恵が素晴らしいものだと実感しているからなのか、ICT社会では「オフでも働きたい派」が少なからず存在するのだ。彼らにとっては、オフ環境というものは辛いもの。オフの状態で仕事関係のスマホが使えなくなると、私生活が上手くいかず、家族との衝突が増えることが調査結果から報告されている。

 さて、日本ではどうなるのか。今までもプライベートを重視して来なかった日本でも、こうしたことが問題化され、ルール化されるようになるだろうか。実際ルール化するといっても、職場環境や職種によって事情は様々なので、一律「つながらない権利」を法律化することは現実的ではない。時間外の連絡禁止、つながる・つながらない時間帯の設置、デジタル機器のスイッチを切る仕組みづくり、業務時間外に対応しなかったことへの不利益な取り扱い禁止、企業内ポリシーの策定など検討課題もさまざまだ。
 働き方改革関連法で、労働時間の上限規制を導入したことは、労働時間の量的規制の問題に、一応けりを付けたとされている。従来の労働時間法の政策は、工場労働のような定型的な働き方の長時間労働や過重労働の問題を対象にしてきたからだ。しかし、産業構造の変化と労働者のホワイトカラー化の増加による個別・自律的な働き方に対する労働時間の問題、とりわけこうしたICTの発展に伴う働き方の多様化については、まだまだ対応できていない面がありそうだ

 ICTの発展と疲労の関係は、今後も研究の余地がありそうだが、余暇を語る我々からすれば、まずは健康を確保するために、オンとオフの曖昧さから解放される「休息の質」を保証してもらいたい。この情報通信技術が高度化する時代においては、オフの間、仕事のスマホやパソコンの電源を切るだけではなく、心理的に仕事の拘束から離れられる休暇の仕組みや制度を改めて議論していくことが大事だと考える。

《執筆:マダム》


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